ラトル/ベルリン・フィルの「くるみ割り人形」全曲盤登場+いろいろあります全曲盤!!

ついに、ラトル/ベルリン・フィルの「くるみ割り人形」全曲(TOCE-90150/90151)が発売されました。

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まずは、CDの帯やEMIジャパンの広告にある宣伝文句をご紹介しましょう。

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音楽史上最大の衝撃的録音!
この『くるみ割り人形』を聴かずして、チャイコフスキーは語れない!!

ジャンルを超えた美しさ。かつてないセクシーな演奏。

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うむ。こういう安っぽい宣伝文句は誤解を招くのでやめてほしいですね。

 【 この『くるみ割り人形』を聴かずして、チャイコフスキーは語れない!!】

まあわからんではないけど、逆に言えば、これまでの録音だけではチャイコフスキーは語れないのかな?

 【 ジャンルを超えた美しさ。】

ジャンルを超えた雄弁さを持っていることは確かですが、この録音が果たして「美しい」のかどうか、残念ながら
今の私にはわかりません。

もしここで聴ける演奏が「美しい」ものだとしても、その美しさは外面的なものではないはずです。
音響的にならもっときれいな音の録音があるのだから。

 【 音楽史上最大の衝撃的録音!】

おいおい、こんなこと言ったらフルヴェンファンが怒りますよ。

 【 かつてないセクシーな演奏。】

悪いけど、これ書いた人、どこ聴いてるの?と言わざるを得ません。
この演奏、そんなに直感的じゃないです。
クララも王子様も見えてこないくらいです。
むしろ、あえて難しい抽象的な表現に挑戦したのではないかとさえ思えるくらいなのに。

まあ、EMIジャパンが相当に力を入れている新譜であることは疑いの余地はありません。

さて、当ブログでは、試聴サイトの音を聴いて、
「イエス・キリスト教会におけるスタジオ録音」と「予想」をしたのですが、
http://asuka2.at.webry.info/201007/article_3.html

録音会場は本拠地のフィルハーモニー、録音日は2009年12月29日~31日
第1幕はスタジオ録音(と言っても、客のいないホールでの録音)、
第2幕はライブ録音(ジルベスター・コンサートで収録ということですね)と記載されています。
第1幕『雪のワルツ』は、オケのみ上記日程で収録し、今年5月に収録した合唱を合成したとのことです。

というわけで、見事に外れました。
それにしても、このホールで、ベースのピチカートがこんなに温かく深い響きで録れるとは!!
私の耳もまだまだまだ修行が足りません。

ただ、第2幕の「ライブ録音」にはまだ納得できない。
というわけで、おまけDVDとCDをもう一度聴き比べてみました。
(はなはだどうでもいい内容なので最後に)

では、このCDの感想を。

さて、今回登場したラトル盤、これまでのCDが霞んでしまうほどの完成度に到達しています。
ベルリン・フィルが本気を出して演奏すれば、そりゃあもう、名演とならないはずがありません。
それに、EMIらしからぬ録音のよさも魅力的です。
DVDの音声と比較して数段豊かで立体的な響きをもち、低音域の豊かさがオケを常に支えています。
さらに、豊かな残響音が、この音楽に求められる色彩感を演出しています。

この録音では、バレエ音楽だとか、過去の演奏がどうだとかいうような先入観にとらわれることなく、
チャイコフスキー最晩年の見事な管弦楽作品として、真摯に演奏している印象です。
ラトル/ベルリン・フィルという超一流の演奏家にもかかわらず、チャレンジャースピリットのようなものが
垣間見えるのが面白いです。

音楽づくりとしては、譜面を間近から見てディティールにこだわるのではなく、やや遠くから見て全体の造形を
優先しているようで、表情に深みを出すためならば、多少縦があっていなくてもかまわないという感じです。

さて、第1幕は、バレエ音楽を聴いているというよりは、もう少し抽象的な交響詩を聴いているような印象です。
音響的な立体感はデュトワ盤に一歩譲る印象ですが、安心して音楽に浸ることができます。
おもちゃが登場するシーンも、ユーモラスながら品を落とすことはありません。

『くるみ割り人形とねずみの王様の戦い』では、小太鼓がスネア(あのシャーという音を出す金属の部品)を外して演奏していますが、
なんとなく間が抜けた印象があって、個人的には好きではありません。

さて、第1幕の聴きどころは、なんと言っても第2場の名曲『冬の松林』でしょう。
この録音の最高傑作と言っていいくらいの見事な演奏が展開されています。
やや遅めのテンポと重厚な響き、そして呼吸の深さは絶品で、雄大でスケール感あふれるクレッシェンドが
じわじわと音楽を盛り上げていき、有無を言わさぬ圧倒的なクライマックスを形作っています。

この曲は、特に後半のトランペットが出てくるあたりから縦を合わせるのが難しいようで、途中で崩壊している
録音や、縦を合わせるのに気を取られてスケール感を犠牲にしている録音もあるのですが、精緻なアンサンブルと、
オケを鳴らしきって初めて生まれる迫力を見事に両立しているあたり、さすがはベルリン・フィルです。

この曲は、プレヴィン/ロイヤル・フィル盤の演奏がめちゃくちゃ素晴らしいのですが、それをも超える印象です。

『雪のワルツ』は、「リベラ」の起用が当たり、合唱の精度は文句なし、美しい透明な響きで魅力的です。
児童合唱の指示があるこの曲、大人の合唱団が歌っているものもありますが、やはりこうでなくては。

さて、第2幕の『お菓子の国と魔法の城』、この希望に満ち溢れた名曲も難なくこなします。
この録音ではフルートの活躍が特に印象的ですが、この曲でも伸びやかな高音でうっとりさせてくれます。
後半、ヴァイオリン・ハープ・チェレスタの音色が豊かな響きの中で見事にブレンドされて、チャイコフスキーの
斬新なオーケストレーションを楽しませてくれます。

こういう部分は、どうしても残響の豊かな録音でないとダメなんですね。

舞曲はいずれも明るく弾んでいます。
『アラビアの踊り』の深遠さも素敵です。

『中国の踊り』、ソフトバンクのCMでおなじみの『あし笛の踊り』、どちらもフルートが大活躍です。
とにかくめちゃくちゃうまいんですね。音がよく伸びるし、よく鳴る。
どのパートもうまいはずなんですが。

個人的には、この録音のMVPをフルートにあげたいと思っています。

『トレパーク』『ジゴーニュおばさんと道化師の踊り』は、エネルギッシュです。
このような曲の打楽器はラトルの得意とするところのようで、ティンパニがやや硬めのバチでシャープに打ち込んで
いるところがいくつかあり、躍動感とキレのよさを演出しています。

『ジゴーニュおばさんと道化師の踊り』は、組曲に入れてもらえなかったかわいそうな?曲ですが、
結尾部など、冒険的とも言える斬新な響きをもつ曲です。
ただ、演奏がうますぎて、その斬新さがやや「当たり前」に聴こえてしまうのがちょっと残念。

さあ、『花のワルツ』です。
クラリネットがもう少し前に出てきてほしかったのですが、いま一つ音が鳴りきっていない印象。
録音のせいでしょうか。

有名なワルツのメロディーでは、ベースの音を拍の頭に合わせておらず、「ぶおん」という感じで立ち上がりの
遅い音になっています。
縦をぴったり合わせるよりも表情に優雅さが増しているようで、これも、きちんと計算された上での演出なのでしょう。

それと、ところどころ音を小さく演奏して、一瞬「?」と感じさせます。
でも、きちんと何回か聴いてみると、これが今までにない寂寥感を演出していて面白いですね。

この優雅なワルツとは対照的に、後半は推進力あふれる音楽が展開されていきます。
このあたりの描きわけは心憎いですね。
最後の4小節は思いっきりテンポを落としますが、ここへのアプローチはCDではリタルダンドをかけており、
インテンポで突入する印象のDVDより音楽の流れが滑らかに感じます。

この『花のワルツ』から次の『パ・ド・ドゥ』序奏にかけて、特に弦楽器の雄弁さはさらに深化していきます。
『パ・ド・ドゥ』序奏は、もはやこれ以上は考えられないほど深みのある音色と表情で歌われ、それはまるで、
交響曲の一節であるかのような強い力をもって聴き手に迫ってきます。
感性に訴えると言うよりも、人生に訴えるとでも表現すればいいでしょうか。

残念ながら、後半のトランペットソロは『冬の松林』のようなスケール感がなく、いま一つです。

さて、全曲の中でいちばん好きな曲を挙げろと言われるととても難しいのですが、『パ・ド・ドゥ』コーダ
これもまた見事な曲で、大好きです。

この曲は、その優美さにおいて全曲の頂点に立つと言ってもいいと思いますが、実はこの優美さを生み出して
いるのは、ベースの音色なんですね。
だから、低音域がふくよかな録音でなければ、この曲の魅力を完璧に表現することはできないのです。

この録音では、どちらかと言えば躍動感に重きを置いている印象ですが、録音がいいので、優美な雰囲気も
それなりに伝わってきます。

・・・

この記事を書きながらずっとこのCDを聴いてきましたが、音楽的とか文学的といった世界を超えている印象です。
かといって決して理性的とか哲学的ではないのですが、私にはどう表現していいのかわかりません。

情景音楽におけるほとんど交響曲とも言える深い表現と、舞曲におけるラトルならではの躍動感、
この両方を堪能できる、素晴らしいCDです。

これさえあれば他はいらない、とは絶対に言いません。
決して完璧ではないし、他にも素晴らしい録音があるからです。
それに、やっぱりティンパニの締めの一打は絶対になきゃダメだと思います。
でも、1つだけ選べと言われれば、他のCDには申し訳ないけど、間違いなくこのCDを選びます。

これまで、いわゆるB級グルメのような扱いを受けてきたこの全曲に、まさにSクラスの存在感を与えてくれた
ラトルとベルリン・フィルに拍手を送りたいです。

それでは、私が所有するCDからいくつかご紹介しておきます。

・・・

いろいろあります全曲盤!!

全曲盤の魅力は、その懐の広さでしょうか。
音楽があまりにも素晴らしいので、きちんと演奏すれば、それだけで十分魅力的な演奏になりうるのです。
昔の「レコード芸術」誌では、その多くが「推薦」「特選」となっていたのもうなずける気がします。

一方で、この音楽には、相容れない性格のさまざまな魅力がちりばめられています。
破格とも言える音楽的な美しさ、精緻さと同時に、感情・人情に訴える旋律にも満ちています。
それゆえ、一人の指揮者がすべての魅力を完璧に描き出すことは難しいのです。

というわけで、私の場合、複数のCDを、気分に応じて聴きわけてきました。

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ヤンソンス/ロンドン・フィル('91) EMI 輸入盤
18年前のクリスマスに国内盤が発売され、私と『くるみ割り人形』の出会いとなった録音。
あまりにも優しさに満ちた音楽に感激、数日間泣けたほど感動したことを今もよく覚えています。

テンシュテットが振ると大味なアンサンブルになるロンドン・フィルをスタイリッシュにまとめています。
第1幕『冬の松林』、第2幕『パ・ド・ドゥ』序奏など、アンサンブルが崩壊しやすい曲もきちんとまとめている
精緻な演奏ですが、遊び心がもう少しあってもいいかなと思います。
アビーロード第1スタジオでの録音で、音にももう少し豊かさがほしいです。

国内盤は長く廃盤になっていますが、輸入盤はこのCDが入手できます。

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デュトワ/モントリオール交響楽団('92) DECCA 輸入盤
ヤンソンス盤のほぼ1年後に発売されたCDで、ラトル盤でも敵わない、ほとんど完璧と言っていいほど見事な
音響設計で全曲を聴かせてくれます。
行進曲のピチカートがすべて音程が聴こえてくるというデュトワならではの精緻さと美的感覚、そして、当時はまだ
勢いがあったデッカの、聖ユスターシュ教会における優秀録音が見事に融合した名録音です。
それゆえ、第1幕で聴けるオーケストレーションの面白さは、やはりこのCDがもっともよく伝えてくれます。

このCDの魅力は音にとどまりません。
お菓子をモチーフにしたジャケットデザインのなんと上品で幻想的で素敵なこと!!
国内盤は日本のイラストレーターの絵に差し替えられましたが、輸入盤のこのジャケットには遠く及びません。

デュトワの指揮は、「情に訴えかける」ドラマとは無縁です。
そのため、同じチャイコフスキーでも交響曲のCDを聴くと、どこか薄っぺらい印象になってしまいます。
『くるみ割り人形』においても、第1幕『冬の松林』、第2幕『パ・ド・ドゥ』序奏などでの演歌的な演出は一切なく、
インテンポであっさりと演奏してしまうので、劇場的な盛り上がりを期待して聴くとひどくがっかりします。

しかし、フレージングが明確なため、たとえば、同じ音形が繰り返されることで生まれる高揚感というような、
あくまでも音楽的な盛り上がりについては、他の指揮者が真似できないくらい見事に描き出すのです。

ラッパの「ソーファミレドーシラソ」が終わった後の弦楽器がまさにこのいい例で、人情味のかけらもないラッパに
がっかりした後の、弦楽器の音楽的な盛り上がりが見事です。

それに、デュトワと言えばバレエ音楽。
舞曲の躍動感は見事で、ワルツの3拍子のリズムの安定感には惚れぼれします。

さて、『花のワルツ』のあの有名な旋律、「ターラターラターラ」のひとかたまりで演奏されることが多いのですが、
実はスラーは各小節の中で完結していて、小節をまたいだスラーはありません。

それを正確に再現したのがこの録音。
「ターラ・ターラ・ターラ」ときちんと切れ目が入ります。
私の場合は、切れてないほうが聴いていて気持ちいいのですが、チャイコフスキーが描いたイメージは
このデュトワ盤に近いのかもしれません。

国内盤、輸入盤、どちらも店頭から長い間姿を消したままです。
デッカもユニバーサルも、アシュケナージ盤とか出すヒマがあったらこちらを出してください。

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ビシュコフ/ベルリン・フィル('86) PROA-249~50 ベルリン・フィル初の全曲盤。
ベルリン・フィルによる全曲盤は、ラトル盤とビシュコフ盤の2種類しかありません。

ラトル盤と同じく、本拠地フィルハーモニーでの録音で、当時売り出し中だったビシュコフとベルリン・フィルの演奏
ということで話題になったようです。

ただ、今はレーベルが消滅してしまったフィリップスの録音は良くも悪くもすっぴんで、響きのややドライな
フィルハーモニーの音をそのままCDにしましたという印象です。

改めて聴いてみると、ベルリン・フィルらしく立派な演奏なのですが、低音が貧弱で残響も少ないので、
ややモノクロっぽい印象を受けます。

国内盤はこのCDが入手可能です。

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ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管弦楽団('98) PHCP-11132
史上初めて?全曲盤をCD1枚に収録してしまった画期的な録音。
ちょうど30歳の誕生日に発売された思い出深いCDです。
これもずいぶん聴きまくりました。

劇場のオーケストラだけあって、人情味あふれるノリのよさがいいですね。
涙腺を刺激する演奏をご希望の方に、真っ先に挙げたい録音です。
せかせかした部分もありますが、いざというところでは、まさに劇的な盛り上がりを聴かせてくれます。
第2幕『パ・ド・ドゥ』序奏、ラッパが悠然と歌う「ソーファミレドーシラソ」には、とどめを刺される気分です。
この部分については、ゲルギエフ盤が今もって最強のインパクトを持っていると思います。

もうひとつ挙げておきたいのは、第2幕「トレパーク」。
実測58秒という快速特急のテンポの中で聴かせる中低弦の一糸乱れぬ早回しは、躍動感に満ち溢れています。

国内盤、輸入盤ともに入手は容易です。

さて、ロイヤル・フィルによる全曲盤はデジタルになってからだけで4つもあります。

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まずプレヴィン盤('86)TOCE-59031~32
全曲録音を2回行った珍しい指揮者で、2回目のこの録音は全体的に温厚な表情でまとめられています。
ロンドン交響楽団との1回目の録音のほうがいいという方も多く、CDも店頭からなくなることはほとんどありませんが、
この新録音のほうは国内盤、輸入盤ともに廃盤となっており入手困難です。

新録音は「両翼配置」のようで、第1幕『冬の松林』では、トランペットソロを弦楽器が見事に包み込んでいます。
これはクララと王子が世界中から祝福されている姿を象徴しているかのようで、その表現は秀逸の一語に尽きます。
ただ、『雪のワルツ』の合唱が大人の合唱団で、透明感がやや足りないのが残念です。

この録音はつまらないという声もありますが、その理由の一つが、ヤンソンス盤と同じく、アビーロード第1スタジオにおける色気のない録音にあるのではないでしょうか。

この録音の3年後、今度はアシュケナージと録音しています。
せっかくホールで録音されているのですが、デッカの録音が逆効果?で、アンサンブルが緩んだところがそのまま
鮮明に伝わってくる感じです。

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テミルカーノフ盤('91)BVCC-34076~77
ゲルギエフは激しすぎる、プレヴィンはおとなしすぎる、ちょうどその中間の演奏はないものかと思っていたら
このCDに出会いました。

シンフォニックな演奏を基本としながらも、劇場的な盛り上がりもある。
明るい部分と暗い部分の音色をがらりと変えたり、一音一音叩き分けする打楽器など、細かいところに目が
行きとどいた丁寧な演奏が魅力的ですが、ラトル盤が登場してしまうと、ちょっと影が薄くなりそうです。

国内盤はこのCDが入手可能です。

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マニノフ盤('95) RPOSP006
ロイヤル・フィルの自主製作盤で、ヘンリー・ウッド・ホールでの録音です。
まず、音がいい。
もちろんロイヤル・フィルの全曲盤の中でもっとも音色がいい。
最大音量の迫力は他に譲りますが、金管楽器などのキラキラした輝きとともにオケ全体の温かみのある音色が
再現されているのが魅力です。
クリアで明瞭なサウンドでありながら、低音域のふくよかな響きとブレンド感が素晴らしく、低音楽器が鍵となる
この曲の優美さが見事に表現されています。

それと、指揮者にもオーケストラにもまったく迷いがない、確信に満ちた演奏なのがいい。
『くるみ割り人形』がすべて頭に入っている指揮者と、その意図を完璧に消化して演奏しているオケ、
特に第2幕は、ラトル盤を聴いた後に聴くとその見事さがより鮮明に見えてきます。

わざとらしさや演出じみた表情は皆無にもかかわらず、音符をすべて自分の言葉で表現しているため
自然な表情でありながら聴きごたえがあり、この音楽の魅力をストレートに伝えてくれるのです。
テンポもオケのアンサンブルも、まさに堂に入った表現で、押しつけがましいところがないので、
何度聴いても飽きないのが魅力です。

ラトル盤のような深みや挑戦者としての意志は求められないものの、音楽としての完成度は非常に高いです。
デュトワ盤やラトル盤と異なり、『行進曲』のシンバルは頭の柔らかいバチを使い、『あし笛の踊り』も手持ち
シンバルで演奏しているのがいいですね。

この録音、第1幕の『冬の松林』もいいけど、聴きどころはやはり第2幕『パ・ド・ドゥ』でしょう。

序奏のトランペットソロは絶妙の音量と音色で響き渡り、それを支えるティンパニのトレモロが素晴らしい音で
溶け合って、特に2回目の「ソーファミレドーシラソ」では、ホルンやピッコロも加わって見事な和声感、色彩感を
生み出しています。
同じくコーダは、ベースの色彩感のある豊かな音色が音楽に素晴らしい気品を与えています。

どの曲もやや早めのテンポで軽快に進み、リズムも弾んでいますが、低音域の音の柔らかさが音楽を支えている
ため、どんなに軽やかにオケを歌わせても、決して軽薄に聴こえたり上滑りして聴こえたりしません。

このマニノフ盤、知名度も低く、ググっても通販サイト以外一件もヒットしない、
(今後ググっても個人サイトでヒットするのはこのブログだけでしょう!)
ほんとにマイナーな録音ですが、ロイヤル・フィルの録音の中では、文句なしにイチオシです。
ただし、『花のワルツ』終わりのほうで16小節の意味不明なカットがあるのだけはいただけないですね。

「名指揮者マニノフが死の直前1995年に残した、目の覚めるほど素晴らしいチャイコフスキーです。」
という宣伝文句ですが、この曲に限っては、「目が覚める」=「つまらない」ということですから、
「夢見心地の素晴らしいチャイコフスキー」と言い換えておきます。

ちょっとほめすぎかな。
でも、ロイヤル・フィルはいいオケです。

輸入盤のみ、このCDが入手可能です。
ナクソス・ミュージック・ライブラリーで見つけた名盤です。

最後にもうひとつ。

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西本智実/日本フィル('08) KICC-715~6
チャイコフスキーの書いた譜面を丹念に音にすることに徹底的にこだわった演奏。
スポーツの中継でよくあるスローのリプレイを音楽の世界でやってみたという感じです。
勢いや迫力といった要素をほとんどすべて追い払って、ゆったりとしたテンポで一つ一つの音をじっくりと
弾いているので、悪く言えば、最初から最後までのほほんとした表情に満たされています。

ただ、このまったり感が妙に新鮮だったりします。
また、スコアの面白さを音によって発見できる楽しみもあります。

これはこれでありかな。
マニノフ盤買ってから聴かなくなったけど。

・・・

以上、いろいろあります全曲盤!!おわり。

・・・

では、最後におまけ。
DVDとCDの聴き比べの結果を記しておきます。

 DVD(リニアPCM2chを選択):鮮明だが平面的でやや味気ない音。
 CD(当然2ch):やや遠い印象だが、立体的で残響も豊かで重心の低いコクのある音。

これが同じ音源とは、とても思えません。

DVDの音を編集によってCDの音にしたのだとすれば、相当の残響付加、バランス調整が行われているはずです。
ちょっと想像しがたいですが、デジタルならどんな調整でもできそうですから、不可能ではないのかも。
あるいは、DVDとCDでは録音に使ったマイクが違ったのか。
通常、ライブ録音ではものものしいくらい、あちこちにマイクが立っていたり吊るされているのに、
演奏会の映像ではどこにマイクがあるかわからないくらい。
そんなコンディションでCDの録音が可能なのか。

で、さらに聴き進めていくと…

『花のワルツ』の最後の4小節、テンポをガクッと落とすところ。
 DVD:インテンポで来て、いきなりテンポを落とす。
 CD:テンポを落とす前にリタルダンドをかけている。

『パ・ド・ドゥ』の序奏
 ① ラッパの「ソーファミレドーシラソ」の2回目、シンバルの音とラッパの音程
  DVD:シンバルは「シャーン」、ラッパは見事な音程。
  CD:シンバルは「パシャーン」、ラッパは最後の3音、特に「ソ」の音程が変。

 ② いちばん気になっていた最後の音
  DVD:オケが最後の音を鳴らしてからラッパだけが最後に鳴る。明らかにズレータ。
  CD:ラッパの音の後で弦楽器が聴こえてくる。まだズレータだがさほど気にならない。

どうにも納得できず、ついにこの2曲の演奏時間をストップウォッチで計測!!
出だしの音が聴こえたらボタンを押し、最後の音が聞こえたらボタンを押します。
 DVD: 6:45:35+4:55:90
 CD:  6:47:50+4:58:25 (いずれも2回測定した平均値)

第2幕のフルートも、DVDよりCDのほうが音のつながりがよく聴こえるんです。
『トレパーク』で初めてティンパニが出てくるところの響きの深さも、DVDでは聴き取れません。

これだけの違いがある以上、「ライブ録音」というクレジットがなければ、私のようなひねくれ者は「別録音」と
判断するでしょう。

いつの録音かなどということは、このCDの圧倒的な完成度の前では、もはやどうでもいいことなのですが、
それでは、同じ日に同じ会場で録音されたのならば、CDとDVDの音がこんなにも違うのはなぜなのか???
と思ってしまうのです。

おまけ終わり。

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